
実力を身につけるために他作品を参考にするというのはよくあることだとは思いますが、”参考の質”に関しては語られにくいと思います。
口先では参考にしてるといいつつ、じつはボンヤリと眺めているだけで何も吸収できていない場合もあるかもしれません。
では、具体的に何を見ればいいのでしょうか。私の主観でポイントを紹介します。
僭越ながら、例として拙作の「サルベージ・ザ・コア」における敵キャラの撃破エフェクトを観察/分析してみます。
それによって得られるデータは以下のとおりです。
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・キャラより手前に不透明の爆発エフェクトが1個出現
┠大きさは目測で敵キャラの70%程度
┠アニメーションは3コマ
┠爆発は最大時を100%とした時、爆発が広がる抑揚は目測で40%→90%→100%(前半で瞬間的に広がって後半で減速するタイプ)
┠3コマ目で輪郭だけになる
┗アニメーション時間は0.24秒
・キャラより奥に不透明の煙エフェクトが3個出現
┠大きさは目測でキャラの60%程度
┠アニメーションは3コマ
┠爆発は最大時を100%とした時、爆発が広がる抑揚は目測で90%→95%→100%(ほとんど変わらないタイプ)
┠2コマ目の時点で輪郭だけになる
┠アニメーション時間は0.36秒
┗ランダム方向に敵キャラ1個分くらいの距離を移動
・合計4個の要素が出現。敵キャラの消滅とちょうど入れ替わるタイミングで同時に出現。敵キャラに点滅等のエフェクトはなく即座に消滅
・効果音はアニメーションの終了とほぼ同時に鳴り止む
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たかだかエフェクトひとつに対してこれだけやります。細かすぎるでしょうか?むしろこのレベルまで具体的に、文章に書き残せるほどのものにしてこそ”参考”だと思います。
それもひとつのゲームに対してではなく、様々なゲームのデータをかき集めて標準的な品質(デファクトスタンダード)を把握することがとても重要です。
自分のゲームに好意的なコメントが寄せられるのは感謝なことであり、励みになります。それはゆるぎない事実です。
しかし、それは生存者バイアスがかかっていることも意識しなければなりません。
好意的なコメントが1件届く裏で、あまりの出来の悪さに呆れて何も言わずに去っていったプレイヤーが何人いるのかは把握できません。
上を目指すのであれば、そのような層をできるだけ引き止める必要も出てきます。そのためには、あらゆる要素が標準品質に達していなければなりません。
普通のゲームなら当たり前にできていることができていない……それは致命的です。自分で気づいて自分で改善するほかありません。
上記の例でいえば、敵キャラの撃破演出がこれよりも足りていないのであれば、せっかく操作して敵を倒しても見返りがショボいという悪印象を与える危険性があるということです。
(筆者が自分の作品を基準にしているおごり高ぶった状態なので、様々なゲームの演出を観察して標準品質をつきとめてください。)
エフェクト単体の質だけでなく、どのタイミングでエフェクトが発生するのか、そのエフェクトにどのようなUI効果があるのかも分析の対象です。
例えば、現代のゲームでは壁キックをすると土煙エフェクトが出ます。これはアクションが成功したことを強調できています。
地上と水中が切り替わるステージでは、操作感が変わる瞬間に水しぶきエフェクトを出してプレイヤーに教えています。また、見やすくするために水を透明に近い色にしつつも水中であることを印象づけるためにあぶくエフェクトなどの趣向を凝らしています。
プレイヤーを追いかけるミサイルには煙で尾ひれをつけることで軌跡がわかるようにし、旋回性能を把握しやすくなっています。
即着弾するレーザーには予告線を出したり画面外からじわじわ詰めてきたりと、プレイヤーが避ける準備をする時間を与えています。
これらはほんの一例です。実際に遊んでいるときは気づきにくいので、プレイを録画してエフェクトが発生した瞬間瞬間を徹底的に調べてみましょう。
中でも画面振動は言われてみないと気づかないレベルにさりげなく行われているので見逃さないように注意してください。
雨や雪といった天候表現をどうしているのかについても具体的な素材や動かしかたを細かく分析するべきです。
背景美術に関しても、実ブロックとすり抜け床、装飾用ブロック、背景が初見でも一発で見分けられるためにどのようなテクニックをどれくいらいの強度で行っているのかを見てみましょう。
特に背景は実ブロックと比べて大きく色相を変えている傾向があります。このような点も意識して観察しないとわかりません。
実ブロックも何種類のマップチップを組み合わせて模様をつくっているのか見てみてください。1個や2個ではないはずです。
ゲームシステム自体も具体的な数字でデータを取ることができます。
キャラの大きさは画面に対してどれくらいか、移動速度は1秒間にキャラ何個分なのか、1ステージの長さは画面何個分か、敵キャラは1画面内に最大で何体出てくるのか。
ザコ敵1体を倒すのにかかる時間はどれくらいか。中間地点の頻度はどれくらいか……ボンヤリ眺めるだけでは吸収できません。
アクションゲームを想定して例を出してきましたが、RPGなどでも応用できます。
村マップひとつとっても、キャラの大きさを基準にどれくらいの広さか。広さに対して出入り口がいくつあるのか。歩ける場所とブロックの面積の構成比率はどれくらいか。
端から端まで何秒で歩けるか……このような点を意識しないで作られたマップは間延びして退屈なものになります。
独房のつもりで作ったマップでも、よくよく見てみると一軒家より広いなんてこともあるかもしれません。
(脱獄用の仕掛けをつくるために仕方ない場合もあるかもしれませんが)
恋は盲目といいますが、自分のゲームに恋をして課題や問題点が見えていない場合があります。
そのときは「なぜ私のゲームは評価されないのか」と不満を漏らしかねません。周りの人は「この程度では評価されなくて当たり前だ」とわざわざ言うくらいなら静かに去ることを選びます。
逆に、問題点を十分に把握しないまま「どうせ私はクソゲーしか作れないんだ」と拗ねてしまえば成長できません。
競合相手を知り、自分の現状を知り、健全な形で自分のゲームが未成熟であることを理解する必要があります。
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筆者作のフリーゲーム「サルベージ・ザ・コア」の制作後記を発売しています!
記事内の内容と被っている可能性もありますが、一つのゲームに題材を絞ってより具体的に考えたことをまとめました。活動応援をよろしくお願いします。
ゲーム https://otokam0510.itch.io/stc
制作後記 https://booth.pm/ja/items/5169932
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