より弱く、より劣ったものになるために

より弱く、より劣ったものになるために

 現実世界のカメラにおいては、レンズフレアなどの余計なものが映らないように製造技術を磨き上げています。
しかし架空のイラストにおいては、光を印象づけるためにあえてレンズフレアを描き込むことがあります。
また、現実の格闘技はできるだけ無駄のない動きになるために鍛錬しますが、架空の3Dアニメでは動かないと違和感が出るのでモーションにわざと無駄な動きを追加します。
ゲーム制作も架空の世界なので基本的には弱さをデザインするものであり、例えば、何もしなければ自由に動けるはずなのに重力の概念をつくってあえて不自由にするからこそ”敵を踏みつける”という遊び方を生むことが出来ます。

 これはゲーム性を重視しているときだけの話ではありません。カジュアルさを重視している場合でも「HPがなくなって倒されてしまうのは不便だから、常時無敵にしてしまおう」というケースは少数派です。
そんなことをすればゲームを遊ぶことそのものが無意味なものになってしまうのが目に見えているからです。
 (もちろん、アイデアとセンスによってそれを実現した例もあるのですが)
それでは、なぜHPがあるとゲームが面白くなるのでしょうか。

 例えば、HPが3あって1ダメージづつ減っていく場合。
これはチェックポイントまでにミスが許される猶予回数という方向性になり、敵の動きや配置を覚えて操作精度を高めていく楽しみがあります。
HPが100あって敵からの攻撃に10ダメージや30ダメージといった違いがある場合は状況が異なります。
この場合は30ダメージを確実に避けるために10ダメージの攻撃はあえて受けるなど、リソース管理の戦略性という意味合いをつくることができます。
このように、HPという制約ひとつを例にしても制約の作り方次第で遊び方の方向性を定めることができるのです。
 方向性を定めることができれば難易度調整の指標にもなります。
例えば、HPが3だとクリア率が低いからHPを10にしようというのは好ましくありません。何も考えずにステージを踏み倒すなら常時無敵と変わらないからです。
自作品でやりたいことは敵を覚えたり精度を高める楽しみ方だと決めていれば、敵の振りかぶりを大げさにして覚えやすくしたり、落とし穴の幅を狭くすることで要求精度を甘くするといった調整の仕方を思いつくことができます。
考えなしで作った仕様であれば、このような深掘りすらできません。
HPの他にも、スタミナ、弾数、素の移動速度など多くの部分で弱さや制約を表現する機会があります。ありがちな仕様をなぞるだけではなく、その仕様がどのような道筋で面白いゲームプレイにつながるのかについて自分なりの答えを探っていきましょう。
カジュアルに特化すると決めた場合でも、しっかりと意思をもって決められたのであれば「上記の利点が得られないから別の要素で補う必要がある」として手応えや演出にリソースを割くといった開発の指標になります。

 あくまでもゲームプレイに指標を定めるために弱さを作るということを忘れてはいけません。高難易度ゲームでも単純にプレイヤーをいじめる効果しかない仕様は敬遠されます。

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